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                                  柿酢 

熟した柿を容器に入れて一年も放っておけば自然に酢になる、なんて簡単にいう人がいる。条件さえそろえばそのとおりに違いない。数年前、プラスチックの樽に熟柿を詰めて和紙で蓋をし土蔵の隅に放置しておいて出来たものはあまり酸味もない酢とは呼べない何かだった。
 もう少し理詰めでやってみようと本などを参考に再度試みた。酢の醸成は、まず糖が酵母によって分解されてアルコールを生成し、ついでアルコールが酢酸菌の働きで酢に変わるという二つの過程で行われる。アルコールの度数がそのまま酢の度数になるので5%前後の食酢(一般にこの程度)を得るには5%のアルコール溶液を必要とする。原料となる平核無しを軽く洗ってヘタを取りかめに入れ、本の説明に従い柿量の1/3の水を加えて軽く棒で突き混ぜると熟柿はどろどろの液体に変わった。加水の意味は糖度の調整で、柿は糖度が15、6度あるのでそのままでは酢には濃すぎる柿酒ができてしまうのだとか。アルコール発酵は柿の皮についた自然の酵母だけでも十分なはずだが念のためパン用のドライイーストを何グラムか添加した。












 発酵は仕込んだ翌日に始まった。泥濘状の柿は炭酸ガスの泡で押し上げられ(一日一回溶液に沈めて雑菌の繁殖を抑える)、アルコール臭が日ごとに強くなる。2週間おいてアルコール発酵が大体おさまったと思われる頃合いに柿をさらしで濾し取り、絞った酢醪は広口瓶と甕に移した(酒かすは鶏へ)。ここから酢酸発酵へ移行する。
 酢作りでの大敵は酢酸菌と同じ条件で繁殖し酢酸菌の増殖を抑える産膜酵母だとか。そのための対策として絞った醪に酢を混ぜる方法が有効であるという。といっても自家製の酢はまだないので安い穀物酢を購入して2割ほど混ぜ、好気性の酢酸菌のために紙の蓋をして、冬場は寒い土蔵ではなく比較的暖かい部屋に置いて熟成を待つことにした。酢酸菌は醪の表面で増殖して菌膜を張る。菌膜が見えるようになれば来年の自家製柿酢は約束されたとみて間違いないでしょう(2013/12)。

酢醪の表面に酢酸菌の膜ができた(2014年1月上旬)。




 菌膜ができて酢酸発酵に入った酢醪はときどき味見をしながら様子を見ていた。産膜酵母による汚染はなく少しずつ酸味が増していることは確か、でも酢として完成していてもおかしくはないこの季節(8月)になっても市販の酢と比べるとまだ薄い。酢酸菌の中には作った酢を自分で食べてしまうグルコンアセトバクター・キシリナスというのがいて、セルロースを生成してコンニャクみたいなものになるので俗にコンニャク菌と呼ばれる。このコンニャクというのはココナツ汁で培養される菌の生成物ナタデココの柿バージョン、どんなものか興味をそそられるけれど酢作りには余計者。もしやその所為で酸度が上がらないのかと目を凝らしてもそんなものは見当たらない。ひとつ気になるのは醪表面を覆う菌膜が単なる菌のコローニーとは違うようなぷよぷよしたひとかたまりの円盤になっていることで、箸で摘まんで持ち上げることができる。これが成長するとコンニャクになるのかどうか、よくわからないままとにかく、怪しげな菌膜と底の方に沈んでいる澱の間の澄んだ液体を細い管で吸い出して別の容器に移し替えた。これを涼しい倉に移して当分の間静置熟成させることに。酢酸発酵が始まった時はほとんど透明だった液色がこれほどまでに濃くなった理由も今は不問に付して様子を見守ることにする。




















           

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